(2) ノーベル賞を凌ぐ大発明

☆高い音響効果を生む構造体

銅鐸本体のことを 鐸身たくしんという。 略してただ、とも呼ぶ。 身の上方部左右の端寄りと舞の部分に円または四角形の孔が表裏ともに対に計6個開けられている。 さらに身の裾の下端の前後左右にも角形、台形あるいは半円形の開放孔(切り込み)がある。 これは銅鐸鋳造過程と密接不可分の関係にあるのと同時に、音響工学的効果を高めている。 実はこの孔の部分が鋳型では砂で満たされていて、溶けた銅合金が入り込まないシステムを構成し、これによって身の厚みが決定される(型持孔)。 ただし、ろう型法によって作られた可能性もある。 この厚さは2ミリほどまでに薄く、銅鐸系弥生人たちの高度な鋳造技術を雄弁に物語る。 この薄い構造体が生み出す音響エネルギーが金属内部に吸収されることなく遠方に向かって甲高く響き渡るシステムとなっている。 同時に軽量化が計られ、ひとたび事に及ぶと、とっさに隠匿場所から持ち出され警報として打ち鳴らされたと考えられる。
日常的伝達に使用されたことも十分に考えられる。 鈕の孔に竹の棒を通して銅鐸を支え、その両端を人の手または木の枝で支えたのであろう。 そして一人が木の棒で打ち鳴らす(右図)。 側面部の主に下方の裾に近い部分を打ったものと思う。 数々の銅鐸の側面下方部の摩滅が著しいからである。 銅鐸使用の想像図
銅鐸使用の想像図
内部に舌棒をぶら下げて鳴らしたため生じたとする内凸帯の摩滅というのは事実に反している。 鰭は飾りであると同時に共鳴板の役割を果たし、音響効果を一層高めた。 『青銅器の考古学』(学生社、1999年)を著した久野邦雄さんは、上記型持孔の意味について復元銅鐸を使って音響工学的実験を行った。 孔を全く有しないものから多数持つものまでの銅鐸を打ち鳴らして比較検討したところ、6個の孔と4個の切り欠き孔を持つ銅鐸が余韻のある最良の音を発することを発見した。 したがって型持孔の役割は鋳造のためもあろうが、音響性にも重要な意味が存在していた。 ちなみに今日まで発見された銅鐸のほとんどがこの形を示している。

次へ